札幌地方裁判所 昭和50年(ワ)567号 判決 1976年9月20日
原告 株式会社新日本緑産
右代表者代表取締役 小口石太郎
右訴訟代理人弁護士 能登要
被告 株式会社日栄
右代表者代表取締役 松田一男
右訴訟代理人弁護士 山根喬
同 太田三夫
主文
一 被告は原告に対し、金一、〇二三、二〇七円およびこれに対する昭和五〇年五月二七日より支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
四 この判決は、原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告は原告に対し金一、〇八八、七四七円およびこれに対する昭和五〇年五月二七日より支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行の宣言
二 被告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告(当時の商号を株式会社功証と称した。以下同じ。)は被告(被告会社の当時の札幌支店長訴外西田稔が被告会社を代理した。)との間で、別紙の「借入日」「借入金」「弁済期」「約定利率」の各欄記載のとおりの各金銭消費貸借契約を締結し、(各弁済期に、元金のほか、「支払利息」欄記載のとおり、それぞれ約定利息を支払った。
2 被告は、債権番号(以下、単に番号という。)5ないし8、11、17につき否認しているが、これらについても、他と同様、前記訴外西田稔が、被告会社札幌支店において、被告会社の用紙を使用して、契約し、かつ元利金を受領したものであり、万一、右各番号分については、右西田が権限外の行為を行ったものであるとしても、原告は、右各番号分についても、西田が代理権を有するものと信じていたし、前記事情に照らせば、そう信ずるについては正当な理由があるものである。
3 しかし、右各金銭消費貸借契約における約定利率はいずれも利息制限法違反の高利であり、被告は原告に対し、同法所定の制限を超過した「過払金(原告の請求)」欄記載の各金員を返還すべき義務がある。
4 よって、原告は被告に対し、右過払金合計一、〇八八、七四七円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和五〇年五月二七日より民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する答弁
1 請求原因1のうち、別紙番号1ないし4、9、10、12ないし16については認めるが、その余は否認する。
2 同2は否認する。
3 同3は争う。
本件各金銭消費貸借契約の締結、元利金の支払に関与した原告会社の役員は、金融業にたずさわったことがあり、本件各約定利息の支払については、いずれも利息制限法所定の制限を超えており、その超過分については支払義務のないことを知りながら、任意で支払ったものである。
したがって、原告は民法七〇五条により、その返還を請求することはできない。
三 証拠《省略》
理由
一 原告と被告間に、別紙番号1ないし4、9、10、12ないし16記載のとおりの各金銭消費貸借契約が締結され、原告が右につき、各元金のほか、「支払利息」欄記載の各金員を支払ったことは、いずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、右以外の、すなわち、番号5ないし8、11、17について、その記載の各金銭消費貸借契約の締結および元利金の支払の有無について判断する。
《証拠省略》を総合すれば、番号5ないし8、17記載のとおりの各金銭消費貸借契約が、原告会社の営業部長ミナトと、当時の被告会社札幌支店長であった訴外西田稔(以下、訴外西田という。)との間で締結され、右各番号分について、元金のほか、「支払利息」欄記載の各金員が訴外西田に支払われたことを認めることができ(番号11については、契約の締結、元利金支払ともにこれを認めるに足りる証拠がない。)、右認定を覆すに足りる証拠はない。
ところで、訴外西田が、右各番号分について被告会社を代理して右各行為をなす権限を有していたことを認めるに足りる証拠はないが、弁論の全趣旨によれば、原告において、訴外西田が右権限を有していたものと信じたことが認められ、かつ、前記のとおり、訴外西田は、被告会社札幌支店長の肩書を有し、しかも、番号1ないし4、9、10、12ないし16記載の分については、代理権限を有していたことにつき当事者間に争いがないから、原告が右のように信じたことには正当の理由があるものというべきである。
三 番号1ないし10、12ないし17記載の各金銭消費貸借契約につき、利息制限法による制限内の利息は、「利息制限法による限度利息」欄記載のとおりであり、従って、原告の支払った「支払利息」欄記載の各金員は、いずれも各「過払金(認定)」欄記載のとおり、同法による制限を超過して支払ったものである。
しかしながら、本件各番号分についての過払金の請求は、それぞれ訴訟物を異にすると考えられるので、番号1、4、6、7、9、10、12、13、15、16については、いずれも原告の請求の範囲内でのみ過払と認める。
よって、認容すべき過払金は、合計一〇二万三、二〇七円である。
四 ところで、被告は、本件各契約の締結、元利金の支払に関与した原告会社の役員は、金融業にたずさわったことがあるため、本件約定利率が利息制限法の制限を超えるものであること、そして右制限を超過する分については支払義務のないことを知りながら任意で支払ったものであるから、原告は、民法七〇五条によりその返還を請求することはできない旨主張するので、この点について判断する。
思うに、民法七〇五条は、債務の不存在を知って弁済したことを是認しうる客観的事情の存する場合には、適用されないものと解すべきである(なお最判35・5・6民集14・7・1127を参照。)が、高利の禁止、経済的弱者の保護という利息制限法の立法趣旨に鑑みると同法による制限超過利息を支払った債務者には、原則として、右にいう「債務の不存在を知って弁済したことを是認しうる客観的事情」があるものというべきである。
けだし、もし、そう解さずに、個々具体的に、「超過利息の支払義務がないことを知りながら任意で支払ったか否か」という基準で分け、返還を認めたり、認めなかったりすれば、右基準は、かなり恣意的な要素をもつのみでなく、超過利息の支払義務のないことを知りながら支払う債務者は少なくないと考えられるので、貸金業界に無用の混乱を招くおそれがあるものといわなければならず、そのような結果を是認することは、超過利息の返還を認めた一連の最高裁の判決(最大判43・11・13民集22・12・2526、最判44・11・25民集23・11・2137)の趣旨を没却するものというべきだからである。
よって、民法七〇五条の適用を前提とする被告の主張は、その余の点について判断するまでもなく採用できない。
五 そうすると、被告は原告に対し、前記「過払金」合計一、〇二三、二〇七円を返還すべきであり、原告の本訴請求は、右金員とこれに対する本訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五〇年五月二七日より民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 増山宏)
<以下省略>